『恐れ入ります。尤もあまり違わないかも知れません。どっち道、縁切り話には相違ないのですから――しかし、同じ縁切りでも、いや縁切られですよ――こいつァ、つまりこの世との縁切られ話なのです。はッはッはッ。』
『はッはッはッ――』西村も清水も共に陽気な笑声を立てた。
『閻魔の庁で公事を起こそうってわけですね。』
『いいえ。けれども、冗談ではないのです。西村さん! 僕は遺言状を作成して頂きたいのです。』清水の声音は本当に真面目であった。
そうして再びその眼にはふいと暗い影がさした。
『え? 何だって! 清水君! 遺言状だって? ――これァまた途方もない。君は何か、そんな危険な活劇物でも撮ろうって云うのですか――だが、それにしてもちっと可笑しいじゃありませんか。』
『西村さん。愕かないでください。本当を言うと僕は――』と清水は一流の名優らしく、突き出した両手を蟹の様にひらいて、それをはげしく慄わせながら、そうして双眼をまるくみはりながら云った。『本当を云うと――僕は今日死ななければ、しかも殺されなければならなかったのです。』