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 廓をぬけ出した綾衣のゆくえは大菱屋でも手を分けて詮議していた。相手が外記であることは大抵察しているものの、痩せても枯れても天下の旗本という名に対して迂闊に懸け合いはできない。こっちに確かな証拠を握っていない以上は、逆捻じに言いがかりを付けられて、飛んだ目に逢うことがある。玉をどこへか忍ばして置いて、抱え主から懸け合いの来るのを待っているなどは、この頃の悪旗本や悪御家人には珍らしくない。大菱屋でもそれを懸念して、外記の屋敷の方へは容易に取ってかからなかった。  女は屋敷内に隠れていそうもない、きっと他に忍ばしてあることと大菱屋では睨んだ。今は両親とも死に絶えてしまったが、綾衣は神田の生まれで、そこには遠縁の者があるとか聞いているので、まずそこらへ探りを入れているがまだ手がかりはない。  お時が馬道から聞き出して来た噂はこれだけに過ぎなかったが、とにかくに屋敷の方へは直接に懸け合い込まないというので、綾衣も安心した。お時も十吉もほっとした。ある晩、外記が来た時にその話をすると、外記は面白そうに笑っていた。 「おれも悪旗本かも知れないよ」 CSRお得なクレジットカード比較