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 すると、ピート一等兵が、手で自分の口にふたをしながら、 「あっ、わかりました。軍曹どの、林檎が見えなくなったわけが、わかりました」 「お前に、わかった? どういうわけか」 「つまり、あの林檎も、幽霊だったんです。林檎の幽霊だから、とつぜん、林檎の姿が、かきけすように、見えなくなってしまったというわけです」 「なるほど、林檎の幽霊か、そういうことが、あるかもしれないなあ。ああ気持がわるい!」 「ああ軍曹どの。林檎の幽霊! ああ、おそろしいですなあ」  といいながら、ピート一等兵は、胃袋の中からこみあげてくるげっぷを、手でおさえた。林檎くさいそのげっぷを……。  パイ軍曹が、林檎と幽霊の関係について、おもいわずらっている間にピート一等兵は、早いところ、その林檎をしっけいして、皮もたねも、みんな自分の胃袋へおくりこんでしまったのだった。  すばらしい味だった。彼は、生れてこの方、こんなうまいものを、たべたことがないと思った。胃袋が、いつまでも、生き物のように、うごめいているのが、はっきりわかった。  おかげで、ピート一等兵は、たいへん元気づいた。もう、幽霊もなんにも、なかった。

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