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 相良十吉は思った。松井田は気が変になっているに違いないと。それにしては余りに穏かな行動だった――彼の目の前にずかずか現われて、気味をわるがらせる外は……。  又その次の日からは相良十吉の家の周りに現われるようになった。いよいよ気味が悪くなったので、妻にこんな人物を見かけなかったかと聞いたが、妻は知らぬと答えた。お手伝いさんや娘の真弓子も知らぬと言った。松井田を見るのは相良自身だけらしい。  昨夜は寝室のカーテンの蔭からのぞき込んでいた。いやらしい頬の傷跡をわざと見せつけたように思われた。  相良十吉は、この頃になって、自分の生命が松井田に脅されているのを感じないわけには行かなかった。彼の懐にしのばせた短刀には、既に松風号の操縦士、風間真人の血潮がしみついているのではなかろうか。 


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