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 紳士の顔は、うしろのもたれと窓枠の間へはまり込むようにして居睡っているので、帽子が前へズレて、半分隠されたようになっているが、それは、さっきのままの顔である。クルミさんが、びっくりしたのは、その顔ではなくて、落ちた新聞のほうである。その新聞は、落ちた拍子に裏返しになって、さっきまで紳士が熱心に読んでいた方の面が出ているのだ。クルミさんは全くなにげなしにその新聞を見たのであるが、思わずギクッとなって、あやうく声を立てるところだった。  それは三面記事で、上のほうの右肩のところに、次のような恐しい文字が、大きな活字で印刷されてあった。 覆面の盗賊、今暁渋谷の××銀行を襲う、行金を強奪して逃走す  それが見出して、その次に小さな文字が何行も並び、それから又、前よりは少し小さな活字ではあるが、一層恐しい第二の見出しが印刷されてあった。 犯人は洋服姿の大男で、中指のない四本指の右手が最大の特徴、凶器を擬せられつつ沈着なる宿直員の観察  クルミさんは、急に眼の前がクラクラッとなって、思わずうしろのもたれへよりかかってしまった。 


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