女給達は、ホッとして顔を見合せた。そして互に、眼と眼で囁き交した。 ――今夜はいつもと違ってるよ。 ――いよいよ本式に、澄ちゃんに喰ってかかるんだ。 まったく、いつもと変っていた。無闇と喚き立てず、黙ってじりじり責めつけているらしかった。時折、高い声がしても、それは直ぐに辺りの騒音の中に、かき消されてしまった。十一時を過ぎると、母親に云いつけられたのか女学校へ行っている娘の君子が、店をしまって、ガラガラと戸締りをしはじめた。煙草屋は、十一時を打つといつも店をしまう。ただ売台の前の硝子戸に小さな穴のような窓が明いていて、そこから晩い客に煙草を売ることが出来るようにしてあった。達次郎――それが房枝の若い情人の名前だったのだが、この男も、どうしたのか、今夜は店先へも顔を出さなかった。 ――確かに今夜は深刻だよ。 ――達次郎と澄ちゃんの仲、とうとう証拠を押えられたんかな。