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「うむ。しかし屍体には短刀の跡もなかったじゃないか」と私はわかりきったことをわざと訊ねた。 「僕ならこう考える。青年たちはこの横丁をとおりかかって誤って団員と間違えられた。そのとき結社の内部を青年たちに見られたものだから、これを死刑にしたのだ。方法は簡単だ。散々撲って気絶させ、それからあの塀を越えてあの石炭の吊り籠に載せる。それだけでよいのだ。あとはあの殺人器械がドンドン片づけてくれる。ここのところを見給え。奴等の乗り越えてきたあとがあるぜ」  そういって辻永は、まだ塀の新しい裂け傷や、跳ねかかった泥跡を指した。 「青年たちはどうしてこの横丁へなぞ入ってきたのだろう」私は不審に思った。 「そいつはこれから探すのだ」  辻永の探偵眼に圧倒された気味で、私はそのうしろについてユダヤ横丁を通りぬけた。まだ空は薄明るかったが、いい気持はしなかった。


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