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 夜とは昼が汚れて真黒になつたものだ。泥棒の体を暗黒中に隠すに都合がいゝ。然しまた夜は彼等の敵が、眼の前に立つてゐるといふ危険がそれに伴ふ。掻攫ひ尾島伝吉は、夜は稼ぎにゆかない、夜は怖い、どういふ風の吹きまはしか、珍しく彼は夜の稼ぎに出掛けた。  そこはお邸街であつた。塀を乗り越えて邸へ忍び込まうとし、塀に手をかけると、塀ではなくて建物の壁であつた。裏口から忍びこまうとして木戸にさはると、裏口ではなく玄関に面した木戸であつた。伝吉にとつては大いに昼間の掻攫ひと調子が違つた。  彼は次第に大胆になつた。暗闇を恐怖し、昼の明るさを恐れない、いつもの調子に戻つたことを、彼自身で気がつかなかつたのだ、掻攫でなく、大盗になつた自信で、一番明るい煌煌と電燈のついた邸に向つた垣根を身軽に乗りこえて、芝生に立つた。みると大きな応接間の細長い窓が『お前が忍びこむには丁度いゝ窓の高さだよ』と彼を手招いてゐるかのやうだ。窓下にすり寄り、両開きの窓を開き、垂れてゐるカーテンに両手で掴まり、のびあがり部屋の内部を覗いた。室内は彼を落胆させるに充分であつた。見掛けは立派な応接室の内部がガランとして貧乏人の住居を想像させた、盗るものといつては一つもない。彼はしばらく考へてゐた。彼の考へは間違つてゐた、実は室内は贅沢に整理された空虚さであつて、大きな金縁に何やら青い色が詰めこまれた洋画や、書棚、安楽椅子など、何れも高価でないものはなかつた。さとみんマカロン クレジットカードとSEO対策