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旅行者


青年は眼ばかり若々しくて

体は生活で、さんざんに汚れてゐる

若い人生の旅行者よ。

僕は君とゝもに

若い手足のはたらきを

どれだけ果したか、

また果しつつあるかを反省してみよう。

風は雲をふり払つた、

だが依然として雲は湧きあがり

空から尽きようともしない

雲は風にいどみかゝつてゐる

君は自然の争ふさまや

悠久なありさまも忘れたのか

もし君が夜の墓石の上に枕をもちだし

夜つぴて星を数へてみたとしたら

明日は――きつと鳶になつてもいゝと思ふだらう

私はいまこゝに青年期のながさを打ち樹て

不老不死の精神に奉仕しようと思ふ、

若い旅行者は、

きのふ何処から出発してきて

けふ何処まで着いたか、

青春の歩みをもつて

太陽と月との着実な歩みに答へねばならない。

若い旅行者よ、

君の健脚のそのやうにも

君の思想を前進させよ。



嫌な夜


ざわざわと風が吹く

吊り下つた電燈は絶えず動く

遠く犬が鳴く

不安な胸騒ぎがする

沈着で禍などをすつかり忘れた

肥満した人間が酒をのんでゐるだらう

おどおどとして正直に

忙しさうに路をゆく人もゐるだらう

寝床をひんめくるやうに

地球の上から夜をひんめくつたら

優しい心を夜襲しようとして

狼の群が山の頂きに吠えてゐるだらう

ぐうたらな思策家が思はせぶりなペンに

インキをひたしてゐるだらう

なんて嫌な夜が続くのだらう

文学も、政治も、映画も、

みんな嫌な夜の中で案が煉られ

明るい昼の時間にもちだされる

ざわざわとした落ち着きのない

塹壕の中で立ち乍ら眠つてゐるやうに

すべての人々は嫌な夜を

不安な休息にもならない眠りをつづけてゐる

怒りをとろかす眠りを

うけいれる位なら

私は死ぬまで一睡もしないで狂つた方がいい

めざめてゐる昼の時間のために

良い妹のやうな夜であつたらいい

だが悪辣な女か、獰猛な猫のやうに

人々の心に噛みつくために

よつぴて人々の心の中を騒ぎまはる

夜よ、お前はかつてのやうに

暁を待つてゐる純情な夜ではなくなつたのか。

成田市 歯科 揚げ足取りの名人になるな