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 ――どれ見せな。

 ――息子の手紙? 執念深く見度がるのね。

 ――お墓の問題よりその方が僕にゃ先きだ。

 其処に転がっている自然石の端と端へ二人は腰を下ろした。夏の朝の太陽が、意地悪に底冷えのする石の肌をほんのりと温め和めていた。二人は安気にゆっくり腰を下ろして居られた。うむ、うむ、と逸作は、旨いものでも喰べる時のような味覚のうなずきを声に立てながら息子の手紙を読んで居る。

 ――ねえパパ。

 ――うるさいよ。

 ――何処まで読んだ?

 ――待て。

 ――其処に、ママの抒情的世界を描けってところあるでしょう。

 ――待ち給え。

 逸作は一寸腕を扼してかの女を払い退けるようにして読み続けた。

 ――ねえ、ママの抒情的世界を描きなさいって書いて来てあるでしょう。ねえ、私の抒情的世界って、何なの一たい。

 ――考えて見なさい自分で。

 ――だってよく判らない。

 ――息子はあたまが良いよ。

 ――じゃ、巴里へ訊いてやろうか。

 ――馬鹿言いなさんな、またたしなめられるぞ。

 ――だって判んないもの。

 ――つまりさ、君が、日常嬉んだり、怒ったり、考えたり、悲しんだりすることがあるだろう。その最も君に即したことを書けって言うんだ。

 ――私のそんなこと、それ私の抒情的世界って言うの。

 ――そうさ、何も、具体的に男と女が惚れたりはれたりすることばかりが抒情的じゃないくらい君判んないのかい。息子は頭が良いよ。君の日常の心身のムードに特殊性を認めてそれを抒情的と言ったんだよ、新らしい言い方だよ。

 ――うむ、そうか。

 かの女のぱっちりした眼が生きて、巴里の空を望むような瞳の作用をした。


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